03'5月29日「室内楽作品展

作品解説


•はじめに
 作曲家が自己の音楽作品を創り出すにあたり、その契機や 原動力がいかなるものなのかということ…。これはもう種々様々,千差万別で あり、従って当然、作曲家の数に等しいだけの形が有って然るべきではない か、などとも思われる。
 そこで、過去の偉大な先達における創作の契機となれば、言うまでもなくさ ぞかし立派な、あるいは高尚な、あるいはたいそう洗練されたものであること に間違いないのだが、さてこれが「私の場合は」となると、恥ずかしい事なが ら、ひとえに低回趣味,これに尽きるのである。
 つまり、何をするでもなく求めるでもなく、ただあてもなくそこいらをさま よい、とめどなく想念を勝手に遊ばせる。とりとめもなく惰性に任せた時の過 ごし方をする。そのような無為逍遙の中からふと漂ってくる得体の知れない気 分を漠然と捉え得た時、初めてなにがしかの発想が浮かんでくるのだ。
 そんなあてにもならない瞬間の訪れこそが唯一私の表現行為のきっかけにな りうる、という幾分頼りないような真実を近年発見するに及び、またそれが如 何に誇るには足りぬ事であったとしても実のところ自分にとってはそれ以外の ものなど見あたらぬ“なけなしの”契機なのである、ということが判ってくる に従って、覚悟が決まってきたと言えばよいのか、別段それにしがみつくでも なく、また他に無い物ねだりをするでもなく、ようやくにして大分腰の据わっ た態度で創作に向かえるようになってきたというのが、昨今の私の様子なので ある。

プログラム・ノート


•Trio for Oboe,Cello,and Piano(1986年作曲及び初演)

かねてよりの私の考えとして(また、一般によく言われるこ とでもある。)、すごく大雑把に言えば、音楽は「歌、あるいは祈り」と「踊 り(“歩み”なども含んで)」の2つに大別できると思うのだが、

     この曲は非 常に原初的な意味において「うた」と「おどり」を念頭に置いて作られた。
 とはいえ当然、聴けばすぐ判るように“実用の”歌曲や舞踏曲であるわけで は毛頭ない。そうではなく、例えば祭りのお神楽を見物するような、あるいは 酒宴の席で喉自慢が興に乗って一節披露に及ぶような、そんな素朴な人の営み としての音楽がもつ楽しさ、ということを思いつつ作った、ということなので ある。3楽章よりなる作品。

•"Promenade" for Flute and Piano(2003年作曲 今回初演)

 今回のプログラムの中では最新作であるこの曲こそ、はじめに述べた私の 「低回趣味」の最たるもので、曲の構造からしてまさしく“散歩道”そのもの のような形態になっている。まずはとにかく、ただただ気分任せ,という作り 方で一度曲を作ってみたかったのだ。
 しかし、自身のアイディアの乏しさというのはいかんともしがたく、そうは 願っても結構「気分通りに」などと気楽には行きにくいものだ、ということを 嫌でも悟るに到った。
 もちろん、これもまたよい勉強と考えれば、それはそれでよかったのだが・ ・・。

•庭の3つの情景 (1997年作曲 一部再演)

 3曲からなるピアノソロの組曲。「年若い人達に聴いてもらう曲を」と頼ま れる機会があって作った曲なので、なるべく聴いて楽しく愉快な内容に、と願 いつつ作曲した。(ただし、弾くのはそうたやすくはない。「子供のための」 とは称していても、大人でも弾くのが大変な曲というのは、往々にしてあるも のなのだ。)
 ところで、ここにある「庭」というのは異なる3つの庭の、という意味では なく、同一のとある庭における、違った時間帯の、違った状況を写したもの、 ということである。
 第1曲は、人々が集う昼の庭、第2曲は、月や星や窓辺の灯りなどの光だけ が集う夜の庭、第3曲は、鳥がにぎやかに集う朝の庭を思い浮かべて聴いてい ただきたい。

•Rhapsody for Cello and Piano(2002年作曲 今回初演)

 この世界には、苛酷な環境であるがゆえの美しさを備えた風景というものが 存在する。例えば、高い山、深い海、あるいは燃えさかる天体、あるいは酷寒 の天体のように・・・。それらは、人間の生存を許さないほどに厳しく、いか なる人知をも超越した抗いようのない力を容赦なく行使し続ける。
 そして、そういった風景が美しいのは力のゆえでも知恵のゆえでもなく、豊 かであるが為でも純粋であるが為でもないのだろう。たぶん、ただあるがまま である、というだけのことなのに違いない。
 すなわち、“美しい”という感慨の実体はその風景を見るこちら側、すなわ ち人間の側にあり、人間が我知らずに日々“生かされている”ということに対 する際立った対照として、それらの風景に自身の心を投影することから美が生 じている、というわけなのであろう。
 この曲が生まれることになった契機が私にとってのそうした風景であったと いうことを、お聴きになられてもしも実感して頂けるならば幸いである。

•木管五重奏曲 (1999年作曲 今回初演)

 4楽章よりなるこの作品は、実は私にとって、「これまでで一番楽しんで作 ったなぁ」と思える作品なのである。
 ことによると、この曲が現代に生きる作曲家(=つまり私)の手による音楽 であるのに、全くもって旧弊な長調や短調,自然和音のシステムで作られてい ることを意外に感じる向きもあろうかと思うが、その事に対し、自分としては いささかのためらいもとまどいも無かった。
 なぜかと言えば、この曲もまた前述の「低回趣味」が色濃く表れている曲な のだが、そんな風に勝手気儘に人生のひとときを楽しむにあたっては、その流 儀に関して「新しい」も「古い」もないのではないか?・・といういわば信念 めいたものが私の中にあり、作曲の際に用いる語法や方式のスタイルの如何な どには一切頓着しないと決めてかかっているからに他ならない。
 結果なにがしかの感興が得られれば、それですべてを好しとするのである。


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